2010年5月10日「『エネルギー』何を思い浮かべますか?」 理科の探検 科学技術 全て伝えます サイエンスポータル / SciencePortal
【 『エネルギー』何を思い浮かべますか? 】
(掲載日:2010年5月10日)
福武 剛 氏
「エネルギー」という言葉は日常当たり前に使われています。新聞でもテレビでも当たり前のように見たり聞いたりしますし、会話の中にもよく使われています。
学校から帰ってきた子どもに「エネルギーってなあに?」と聞かれたらどのように答えますか?
私は、実験教室を手伝っていただいている主婦の方から相談されて一瞬「うっ!」とつまり、「エネルギーっていうのはものではなく考え、概念、なんですよね。エネルギーについてそのような疑問をもつお子さんは素晴らしいですね」と我ながら中途半端な答えをしました。
私たちは日常生活の中で、多くのエネルギーを使っていろいろな機械に仕事をしてもらっています。私たちの生活はエネルギーを上手に使って仕事をしてくれる機械に支えられています。 � ��こで使っている仕事は職業ではありません。科学の世界で使われているエネルギー*1や仕事という言葉は18世紀から20世紀にかけて作り上げられた科学的な考え(概念)がもとになっています。
ここでは、歴史的なエピソードをたどりながらエネルギーと仕事の考えについて見ていきたいと思います。
エネルギーを持つということは、それが仕事をする能力を持つと同じ意味です。仕事の考えが最初にまとまってきたのは、機械や運動の力学的な働きについてでした。
蒸気機関を発明したジェームス・ワットは仕事率の単位として馬力を使った(注1)
ジェームス・ワットはそれまで使われていたトーマス・ニューコメンの蒸気機関より効率のいい方法を発明しました。この蒸気機関を主なお客で� �る炭鉱の排水ポンプの動力として売り込むために、当時排水作業に使われていた馬ができる時間当たりの仕事量(仕事率)を単位としてその能力を測ることにしたわけです。
仕事の量は「力×距離」で測定します。ワットは、図2のようにして測定し、仕事率を33,000フート・ポンド毎分あるいは550フート・ポンド毎秒を基準として1馬力と名付けました。
huricaneカトリーナは何の日付を上で発生しましたか?
今では、仕事の単位はジュール(J)で、仕事率は、ワット(W)で表示されます。1馬力はおおよそ750ワットです。
図2. ワットが1馬力を決めた測定方法 |
馬は12フィートの長さの腕木を175ポンドの力で1分間に2.5回転させることができたので1分間の仕事量を33000フート・ポンド毎分あるいは550フート・ポンド/ 秒を基準として1馬力と名付けました(180ポンドの力で2.4回転という説もあります) (イラスト:はやのん) |
物体の運動とエネルギー
飛んできたボールにあたると痛い、大砲の弾があたるとビルが壊れるなど、動いている物体には他の物体に働きかける能力があることは、容易に理解できます。運動している物体が持つエネルギーを運動エネルギーと呼びます。ニュートンが運動の法則を完成させた18世紀なかばころには現在の形(運動エネルギー=1/2×質量×速度の2乗)になることが知られていました(2)。 物体を高い位置に持ち上げるためにはその物体を支えるだけの力*2で持ち上げなければなりません。持ち上げる仕事をすることによって物体にエネルギーを与えるわけです。高い位置にある物体が持つエネルギーを位置エネルギーと呼びます。 高いところにある物体は落ちていくときにだんだん速度が大きくなります。落ちていくにつれて位置エネルギーが減って運動エネルギーが増えたことになります。位置エネルギーと運動エネルギーの和(力学的エネルギーと呼びます)は落下の間一定に保たれます*3。
エネルギーと仕事は同じコインの裏表
「ヨイトマケ」って知っていますか? 滑車を使っておもりをロープで引き上げ、ロープを放しておもりを落として土を固めたり、杭を打つ工事方法です(図3)。
通常のボディtempatureは何ですか
図3A から図3B のようにおもりを引き上げます(ふくちゃんがする仕事)。おもりは上に持ち上げられて位置エネルギーを獲得します(エネルギーの変化)。ふくちゃんがロープを離すとおもりは落ちて土を押し固める仕事をします。おもりが仕事をし、位置エネルギーが0になります(図3C)。このようにある物体に仕事をするとその物体のエネルギーが増え、逆に物体が仕事をするとエネルギーが減ります。エネルギーの変化と仕事の量は同じで、測る単位も同じジュール(J)を使います。
熱の正体は?
熱は長い間機械的な仕事とは別物だと考えられてきました。熱の正体についてはどのように考えられてきたのでしょう?
水を入れたやかんを火にかければ、水は熱くなり沸騰します。水は火から熱をもらって熱くなったのです。熱く� �った水には何があるのでしょうか? 17世紀から18世紀ごろには熱という物質があると信じられていました。火から水にこの物質が移ったため熱くなったと考えていたわけです。しかし、形も見えず重さも無い物質を想像するのは難しいことなので、多くの人が熱の正体について考え、その考えを実験により確かめようとしました。
寒いときに手をこすって温めたことがあるでしょう。ものとものを擦り合わせると熱が生まれます。手の運動によって熱が発生したわけです。
熱が運動によってうまれるものだということをはっきりさせたのは、大砲の砲身を削るときに発生する熱で水を沸騰させる実験をしたルンフォード*4伯でした(1798年)(3)。
今では、熱は物体のもとになっている原子の運動の大きさに関係� �ていると考えられています。物体が外からエネルギーをもらい原子の運動が大きくなりその結果温度が高くなるわけです。
熱もエネルギーの形の一つであるという発見は、エネルギー科学を発展させる大きなきっかけになりました。
熱から仕事へ、仕事から熱へ
庭に何が平方フィート
ワットの蒸気機関は熱を仕事に変える働きをします。一方、ジュールは、水を機械的にかきまわして熱を起こし、水の温度が高まるのを実験しました。そしてどのような場合でも一定の仕事が一定の熱の量に相当することを確かめたのです。それまで全く別物と思われてきた熱と仕事が実は同じ尺度で測ることができるとわかったのです。
ジュールは、また、電気を通した針金の中に起こる熱を調べて熱の発生量は電圧と電流の積に比例することを明らかにしました(ジュールの法則)。電気と熱も同じ尺度で測れることがわかったわけです。
エネルギーは不滅です
このようにいろいろな現象が同じエネルギーという尺度で測れることがわかり� �それらの知識をもとにドイツのヘルマン・フォン・ヘルムホルツが「エネルギー保存の法則」を発表しました(1847年)。では、「エネルギー保存の法則」はどのように説明されているのでしょうか? ちょっと長くなりますがファインマン物理学から引用します(4):
- 今日まで知られているあらゆる自然現象を通じて、その全部に当てはまる事実――法則といってもよい――が一つある。これまでわかっているところでは、この法則には一つの例外もなく、精確に成立する。これがすなわちエネルギー保存の法則である。その内容は次のとおりである。ここに我々がエネルギーと名付けるある一つの量を考えると、自然界でどんな複雑な現象が起こってもその量は変化しない
熱エネルギーから力学的エネルギーを得る
ジュールの実験から力学的エネルギーや電気エネルギーが全部熱エネルギーに変わることがわかりました。では、熱エネルギーを全部力学的エネルギーや電気エネルギーに変えることができるのでしょうか?
自動車のエンジンや、発電所のタービンは、熱エネルギーを動力という形で力学的エネルギーに変換しています。熱エネルギーはガスを温めるために使われ、温まったガスのエネルギーが力学的エネルギーに変わるのですが、仕事を終わったガスはまだ熱エネルギーを持った状態で排出されます。だから発生した熱の一部は熱のまま外に出てしまいます。熱のすべてを動力として取り出すことはできないのです。
理論的な計算で、熱エネルギーから仕事に変わる割合(変換効率と呼びます)は、作動温度が高いほど大きくなることがわかっています。発電所のタービンや、ジェットエンジンの効率を上げるために、タービンの材料や構造を工夫して動作温度を高めています。
エネ� ��ギーの墓場 〜エネルギーは一方通行(5)〜
私たちが日常生活の中で一番便利に使っているのは電気エネルギーでしょう。電気エネルギーは動力にも、光にも、熱にも変えることができます。私たちが使った電気エネルギーはどこに行ったのでしょう?
蛍光灯は電気エネルギーを光エネルギーに変えていますが、目に見える光に変わる割合はおよそ20%と言われています。残りの電気エネルギーは熱に変わっているのです。それでは、目に見える光はどこに行くのでしょうか? 蛍光灯は後から後から電気を光に変えています。部屋の中には光がどんどん増えてきてもよさそうなのに、明るさは一定です。光はものにあたると一部が吸収され一部が反射されます。何回も反射を繰り返すあいだに結局全部ものに吸収され、吸収された 光は最後には熱になって周りの温度を少しだけ上げます。
洗濯機に使われた電気もエアコンに使われた電気も、最後は熱になって周りのものを温めています。熱から他のエネルギーにひとりでに変わることはありませんので熱はエネルギーの墓場と言えるでしょう。
0 コメント:
コメントを投稿